平成18年度(2006) 試験 問15 | 中小企業診断士 経営法務
中小企業診断士である甲氏は、自社の株式公開の検討を始めた顧問先の社長から、次のように資本政策についての相談を受けた。
下記の設問に答えよ。
社長:「株式公開に伴って新株発行を行うと、私が保有する株式の議決権比率も下がり、それが会社の経営にも影響してくると思うのですが、これは避けられないことなのでしょうか。」
甲氏:「そうですね。新株発行による資金調達は、結局は経営権を切り売りすることですから、ある程度の支配力の低下は避けられないことです。
ただ、公開前の資本政策において、安定株主を確保することによって、一定の径営支配力の確保をすることは可能です。」
社長:「なるほど。一方で、以前から私は、株式公開をすることによって、長年勤続して頑張ってくれた当社従業員に対して報いる方法はないかと考えていたので、安定株主対策と従業員へのインセンティブの付与が同時に可能な方法も考えられるのでしょうか。」
甲氏:「従業員へのインセンティブであり、かつ、現在または将来の安定株主になってもらうような方法としては、具体的には、 [A] 等が考えられますね。」
社長:「わかりました。資本政策の策定の際にはぜひ検討してみようと思います。
ところで、安定株主との間に信頼関係や取引関係がある間は特段問題ないと思うのですが、当社との関係や経済情勢が変化したような場合は、必ずしも株式を売却しないという保証はないですよね。
上場後に安定株主が減少して流通する株式数が増加してしまったような場合、他者から敵対的買収を仕掛けられる可能性もあると思うのですが、そのような場合、経営支配権を防衛するような手立ては何かあるのでしょうか。」
甲氏:「そうですね。例えばライツプランなどが考えられます。」
社長:「なるほど。上場後に流通株式が増加してしまったような場合にも、経営支配権を維持するための方法を採ることは可能なのですね。
ただ、上場後は他の一般株主の利益も重視されるようになりますから、やみくもに買収防衛策を講じるようなことは許されないでしょうね。」
甲氏:「おっしゃる通りです。経済産業省と法務省が合同で公表した『企業価値・株主共同の利益の確保または向上のための買収防衛策に関する指針(2005年5 月27日)』においては、買収防衛策は、企業価値、ひいては、株主共同の利益を確保し、向上させるものでなければならないこととされ、買収防衛策は
②三原則に従うべき旨が謳われています。」
(設問1)
文中の空欄Aに入る語句として、最も適切なものはどれか。
業績連動賞与
自社の株式を譲渡制限株式とする
執行役員制度の導入
ストックオプションの付与
ライツプランとは、一般的には、会社が平時に新株予約権を株主等に付与し、敵対的買収者が一定の株式を買い占めた際に、買収者以外の株主に大量の株式を発行して買収者の持株比率を劇的に低下させる仕組みである。
ライツプランの導入により、特定の種類株式を敵対的買収に反対する者に対して発行しておき、取締役の選任等の特定の議案を、当該種類株主総会の決議が必要なものと取り決めることにより、敵対的買収に備えることができる。
ライツプランを導入した場合、経営者と敵対的買収者の交渉において、経営者、敵対的買収者の双方が、その経営戦略を株主に対して積極的に説明して指示を取付ける努力を行う効果がある。
ライツプランを導入している企業を買収する場合、敵対的買収者はライツプランが発動される前に、経営者にライツプランを消却してもらうように交渉を行うこととなるため、買収者と経営者が交渉する時間と機会を確保できる効果がある。
企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則
事前開示・株主意見の原則
真実性・継続企業の原則
必要性・相当性確保の原則