平成23年度(2011) 試験 問2 | 中小企業診断士 企業経営理論
次のM&Aに関する文章を読んで、下記の設問に答えよ。
わが国では以前は欧米に比べてM&Aが盛んに取り組まれたとは言い難かった。
むしろわが国企業では、①M&Aよりも内部成長方式による多角化を用いることが多かった。
しかし、近年わが国の企業のM&Aは国内のみならず海外でも活発化している。
そればかりか、それとは逆に海外企業によるわが国企業のM&Aも多く見られるようになった。
M&Aの方式は多様であり、どのようなM&Aに取り組むかは、その目的や企業の戦略によって異なってくる。
また、企業の業績に貢献するM&Aであるためには、②M&Aに関する経営上の課題に対処することが重要である。
開発された技術をてこに新規事業が増えるにつれて、社内でシナジー効果を追究する機会が高まるが、シナジー効果が成長にうまく結び付かない場合、多角化を維持するための費用がかさんだり、多様な事業をマネジメントするコストが大きくなるという問題がある。
グリーンメーラー的な投機的な投資家や企業価値の実現による配当を迫る投資ファンドの動きが活発になると、企業はそれらに狙われないように企業防衛の姿勢を強めようとするため、M&Aも少なくなりがちである。
成長の牽引力となる技術が枯渇してくると、新規な技術による事業機会も少なくなりがちであり、技術イノベーションによる多角化戦略は困難になる。
長期雇用慣行等に支えられて従業員のみならず経営者も会社への一体感が強くなると、このような企業がM&Aの対象になった場合、お家の一大事と受け止められ、会社ぐるみでM&Aに抵抗する動きが生じやすい。
貿易摩擦等の外圧に押されて企業の海外進出が活発になると、国内での生産技術開発や新製品開発が回避され、内部成長方式による多角化戦略は機能しなくなる。
M&Aで企業規模が大きくなれば、獲得した規模の経済性や市場支配力の便益を上回る管理コストが発生する可能性が高まるので、管理コストの削減を図るとともに、そのことによって経営の柔軟性が失われないように注意する必要がある。
企業間のベクトルを合わせて統合するには、それぞれの企業で培われてきた企業文化の衝突を避け、互いを尊重しつつ、1つの企業体に融合することを図ることが重要になる。
買収先の企業の主要なスタッフの離職が多くなると、マネジメント能力や専門的な知識や技能などの人的資源が損なわれて組織能力が弱くなるので、買収先の企業の従業員の賃金や待遇を手厚くすることを怠らないようにすることが必要である。
買収戦略にのめりこむと、買収先企業を適切に評価することがおろそかになり、高いプレミアム価格を相手に支払ったり、高いコストの借り入れや格付けの低い社債の過度な発行などが起こりやすく、大きな負債が経営危機を招きやすくなることに注意が必要である。
買収によって新規事業分野をすばやく手に入れることは、イノベーションによる内部成長方式の代替であるので、M&Aの成功が積み重なるにつれて、研究開発予算の削減や内部開発努力の軽視の傾向が強まり、イノベーション能力が劣化しやすくなることに注意が必要である。